経管栄養の種類と特徴、メリット・デメリットを徹底解説!
「経管栄養」とはチューブやカテーテルなどを使い、胃や腸に必要な栄養を直接注入することです。
食事のときに流動食でも誤嚥(ごえん)の危険性が高くなったり、何らかの理由で機能障害を起こして口から物を食べられなくなったりしたときに、経管栄養という選択肢があります。
胃ろうや腸ろう、経鼻経管栄養といった種類があり、在宅での介護者の有無、施設に入居しているかなどの生活環境によってどの経管栄養が向いているのかは異なります。
今回は、経管栄養を含む人工的な栄養補給法について、種類と特徴を詳しくご紹介します。
2種類の人工的な栄養補給法
口以外から水分や栄養を摂取する方法のことを「人工栄養法」といいます。
種類や特徴などを具体的にご説明します。
人工的な栄養補給の目的
人工栄養法は、生きていくために必要な水分や栄養を取り込むために行われます。
食べ物を噛んで飲み込むための嚥下(えんげ)機能が筋力の衰えによって低下した人や、病気の影響で嚥下障害が起きてしまい、飲み物や食べ物をうまく摂取できない人などが対象です。
経管栄養
手術で胃や腸などの消化管に穴を開け、チューブやカテーテルを使って栄養を直接送ります。
胃に穴を開ける方法のことを「胃ろう」、腸に穴を開ける方法のことを「腸ろう」といいます。経静脈栄養よりも管理しやすく、介護者の負担は比較的軽いです。
誤嚥などの危険性がなくなり、消化器官の働きを維持できるというメリットがある一方で、穴を開けるときに外科手術が必要なのはデメリットといえるでしょう。
胃や腸に穴を開ける手術が必要ない、鼻の穴から食道や胃にチューブを通す「経鼻経管栄養」という方法もあります。
経管栄養では経口摂取と併用することもありますが、歯みがきなどの口腔ケアは必要です。
口を使うことが少ない分、だ液の分泌が少なくなるので自浄作用が減り、口の中に細菌が増えやすくなります。すると、口臭の原因になるほか、細菌が増えただ液を誤嚥して肺炎になるリスクが高まります。
経静脈栄養
静脈の血管に栄養を投与する方法です。経管栄養と違って、腸などの消化管機能が低下、もしくは機能していない場合でも栄養を摂取することができます。
ただし、感染症や合併症などを起こしやすく、在宅では介護者の負担が大きくなるという点がデメリットです。
点滴で注入する「末梢(まっしょう)静脈栄養」と、心臓に近い太い静脈を使う「中心静脈栄養」の2種類があります。
どちらの栄養摂取方法も、口腔ケアは必要です。細菌の増えただ液を誤嚥して肺炎を起こさないように、口の中は清潔にしておきましょう。また、状態が回復した後で口からの栄養摂取に戻れるように、筋力維持のためのトレーニングも大切です。
「胃ろう」とは
お腹から胃に直接穴を開けて栄養を注入する「胃ろう」は、誤嚥を防げること、患者への負担が少ないことなどがメリットです。
胃ろうの目的
嚥下機能に問題があり、誤嚥やそれによる肺炎などの危険性が高いものの、胃や腸の消化管には問題がない人に適した方法です。
胃ろうのカテーテルは、体外固定板、胃内固定板、カテーテルで構成されていて、体外固定板には「ボタン型」と「チューブ型」があり、胃内固定板には「バンパー型」と「バルーン型」があります。
体外固定板と胃内固定板の組み合わせによって「ボタン型バルーン」「ボタン型バンパー」「チューブ型バルーン」「チューブ型バンパー」の4通りがあります。
患者の状態や家庭環境など、個人によって最適な組み合わせを選んで使用します。
メリット
鼻から胃にチューブを通す経鼻経管栄養よりも患者の負担が少なく、胃や腸などの機能を生かして栄養補給が可能です。
口から食道にかけての消化管に何らかの障害がある場合、直接栄養を胃に入れられるので、誤嚥や肺炎の危険性を下げることができます。
また、カテーテルの接続部分は洋服で隠れるので、見た目には胃ろうがわかりません。
デメリット
穴を開けるための手術が必要です。
穴を開けた部分は皮膚トラブルを起こすことがあるため、消毒などを行い清潔に保つ必要があります。
また、半年に一回、定期的にカテーテルを交換する手間と費用がかかります。
認知症の人の場合は、何に使うものかわからずに自分でカテーテルを抜いてしまうことがあるので注意が必要です。
「腸ろう」とは
胃ろうができない人には、お腹から腸に穴を開けて栄養を注入する「腸ろう」という人工栄養法があります。介護をする人にとっては、胃ろうより少し扱いが難しいです。
腸ろうの目的
嚥下障害で誤嚥やそれによる肺炎などの危険性が高く、「胃ろう」ができない人を対象とした方法です。
例えば、病気によって胃を切除されていても、腸の機能が正常に動いている人などに向いています。
胃ろうと同じくカテーテルの形には種類があり、体外固定板の「ボタン型」と「チューブ型」、胃内固定板の「バンパー型」と「バルーン型」を、患者の状態に合わせて全4通りの組み合わせから最適なものを選んで使用します。
メリット
誤嚥や肺炎の危険性を下げつつ、腸から直接栄養を吸収することによって、健康状態を回復させられます。
また、胃ろうに比べて、栄養剤が逆流する可能性が低いというメリットもあります。
デメリット
胃ろうと同じく、穴を開けるための外科手術が必要です。
穴を開けた部分は皮膚トラブルを起こすことがあるので、消毒などを行い清潔に保つ必要があります。
栄養剤を腸に直接注入することから、患者が下痢を起こしやすくなります。
栄養剤の注入を「胃ろう」よりもゆっくりと行う必要があり、時間がかかる点は、介護する人にとって難点といえるでしょう。そのため、人手に制限がある施設などでは受け入れてもらえない場合があります。
胃ろうよりもカテーテルが細くて詰まりやすく、定期的に交換してもらうために通院する必要があるのもデメリットです。
「経鼻経管栄養」とは
鼻の穴からチューブを通して体内に栄養を注入する「経鼻経管栄養」は、短期間で嚥下障害が治りそうな患者に向いていますが、装着時には不快感や苦痛を伴うことがあります。
経鼻経管栄養の目的
嚥下障害で誤嚥やそれによる肺炎などの危険性が高く、消化管の機能には問題ない人が栄養を補給するための方法です。
胃ろうや腸ろうよりも短い期間で口からの栄養摂取ができると見込まれる場合に行います。
また、何らかの理由によって胃ろうや腸ろうができない人にも適しています。
メリット
穴を開けるための手術が必要ありません。
口からの栄養摂取が可能になれば、すぐにやめることができます。
デメリット
細いチューブを鼻から挿入して食道を通し、胃まで入れます。装着時の不快感から、特に認知症の患者の場合は本人が引き抜いてしまうおそれがあります。
チューブの交換時には苦痛を伴う可能性があることや、装着しているときの見た目があまりよくないのも、患者本人にとってはデメリットといえるでしょう。
管理が難しいため、人手が制限されている施設では受け入れてもらえない場合があります。
「末梢静脈栄養」と「中心静脈栄養」について
腸などの消化管が機能していない人に人工的に栄養補給を行うには、血管に直接栄養を注入する2種類の「経静脈栄養」があります。
末梢静脈栄養
「末梢静脈」といわれる腕や足の静脈に、短いカテーテルを挿入して栄養を直接注入する方法です。一般的にイメージされる点滴のように、たいていは腕にある静脈を使います。
経静脈栄養の必要な期間が短い(目安として10日以内)と見込まれると、末梢静脈栄養が行われます。
・メリット
消化管が機能していなくても、栄養を摂取することができます。カテーテルを装着する際に手術の必要がないため、中心静脈栄養に比べると管理しやすいです。
・デメリット
一日に投与できるカロリーの上限が1000kcal程度なので、大人が必要とする十分なエネルギー量は摂取できません。
また、カテーテルの針や栄養輸液の浸透圧などが影響して静脈が炎症を起こして痛くなったり、栄養輸液の注入時に血管痛が出たりすることがあります。
中心静脈栄養
心臓の近くにある、太くて血流の速い静脈を中心静脈といいます。
一般的には鎖骨下を通る静脈から中心静脈にカテーテルを挿入して、栄養を直接注入します。
経静脈栄養が必要とされる期間が、末梢静脈栄養よりも長く見込まれると(目安として10日以上)、中心静脈栄養が行われます。
・メリット
1日2500kcal程度までの栄養を投与できるので、末梢静脈栄養よりも多くのエネルギー量を摂取することが可能です。栄養状態が悪い場合にも適しています。
・デメリット
カテーテル挿入部から菌が入り込むと感染症にかかりやすいので、常に清潔を保つ必要があります。
カテーテルの挿入に関連して、肺を傷つける「気胸」や、出血して胸に血がたまる「血胸」などの合併症を起こしやすいのも、中心静脈栄養のデメリットです。
また、高カロリーかつ濃度の高い栄養を使用するので、急に投与し始めると血糖値が急激に上がり、急に辞めると低血糖を起こすおそれがあります。
医療処置が求められるため、施設によっては入所の受け入れが難しい場合もあるでしょう。
再び口から食事できる日を目指して
胃ろう、腸ろう、経鼻経管栄養のどれを選択するかは、被介護者の状態によって異なるほか、それぞれのメリットとデメリットを考慮する必要があります。
また、消化管が機能していない場合は、経管栄養ではなく経静脈栄養を選択することになります。
口から物を食べて胃や腸で消化し、必要な水分と栄養を体内に取り込むのが本来の理想的な形です。
長期間にわたって経管栄養や経静脈栄養に頼っていると、食べるための筋力や消化管の機能は衰えていきます。
人工的に栄養を摂取する状態になっても、口から物を食べられるようになる可能性はありますので、経管栄養や経静脈栄養の状態でも口腔ケアや筋力トレーニングなどを行いましょう。
この記事の監修者
在宅緩和ケア充実診療所・機能強化型在宅療養支援診療所
城北さくらクリニック
院長 犬丸秀雄
HP:http://houmon-shinryo.jp/jsc/
日本大学医学部卒業後、日本大学板橋病院(麻酔科・救命救急・ICU)を経て、赤塚駅前クリニックを開業し往診も行う。平成24年より、東京都練馬区を中心に訪問診療専門の診療所を開設。
24時間体制、コールセンター設置等を整備し、医師14名・看護師5名(令和5年4月現在)でご自宅や施設へ訪問診療を行っている。
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