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食事介助の正しい方法|安全な姿勢・食事前の準備・介助の手順

介護が必要な高齢者にとっても、食事の時間は心から楽しんでほしいものです。しかし、介助の方法が間違っていると、その食事自体が被介護者にとって苦痛になってしまうことがあります。
高齢者の食事をスムーズに進めるためには、誤嚥や窒息などの事故が起こらないよう、食べ物を口に入れてから咀嚼するまで適切な指導を行うのはもちろん、「おいしい」「毎回の食事が楽しみ」と感じて、自発的に食べてもらえるように工夫することが大切です。
今回は、介護を行っている人や、これから介護を始める人に向けて、食事介助の正しい方法をご紹介します。

食事介助イメージ1

知っておきたい高齢者の食事の特徴

他人に食べさせるというのはなかなか難しいものです。ものを噛んだり飲み込んだりする力が弱い高齢者が相手であればなおさらでしょう。適切に食事介助を行うためには、まず高齢者の食事の特徴を知っておく必要があります。

やわらかいものを好む

高齢者は、噛む力が落ちていたり、入れ歯を使っていたりするため、しっかり噛まなくても食べられるやわらかい食材や料理を好むようになります。また、のどの筋力が衰え、飲み込む(嚥下)力も低下するので、硬い食べ物はのどを通りにくくなります。これもまた、高齢者がやわらかいものを好む理由の一つです。

乾燥したものは飲み込みづらい

高齢者は加齢とともに唾液の分泌量が減少し、のど周辺の筋力も衰えるため、パンやビスケット、サツマイモなど、パサパサした食材を飲み込みづらくなります。水気を多く含んだ食材やとろみのついた料理のほうがスムーズに食べられます。

のどの渇きを感じにくい

高齢になると、のどの渇きを感じにくくなります。そのため、高齢者が自ら水分を欲しがるタイミングを待っているだけでは、1日に必要な水分を摂取してもらうことができません。小まめに水分補給を促しながら、飲んだ量を確認し、十分な水分を摂ってもらうよう心がける必要があります。

濃い味付けを好むようになる

加齢とともに味覚や嗅覚は衰えていきます。若い頃と比べて料理の甘さや辛さを感じにくくなるため、「味が薄い」と言って調味料を多量に使用したがったり、以前よりも濃い味付けを好んだりするようになります。
また、嗅覚が鈍くなることで、料理のおいしそうな匂いから食欲をそそられなくなり、食欲そのものが減退します。

胃もたれしやすい

胃粘液の分泌量の減少や、腸の運動能力の低下により、消化機能が衰え、胃もたれや便秘が起こりやすくなります。これらも食欲不振を招く原因です。

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食事のときの正しい姿勢

高齢者に食事を出すときは、「誤嚥」に細心の注意を払いましょう。誤嚥のリスクを下げるには、正しい姿勢を保つことが重要です。

テーブルと椅子(車椅子)で食事する場合

自力で座位(座る姿勢)を保てる人なら、なるべく椅子や車椅子に座って食事をしてもらうようにします。
椅子の高さは、深く腰掛けた状態で足が床にしっかりとついて、かつ膝が90度に曲がるくらいの位置がベストです。テーブルの高さは、軽い前傾姿勢の状態で腕を乗せた際に、肘が90度に曲がるくらいが適切です。また、前傾姿勢を保ち、椅子から落ちないようにするために、背中や頭の後ろなどにクッションを入れて支えるのもおすすめです。

車椅子を使用している人の場合、フットレスト(足置き)から足はおろし、床に足の裏がつくようにしましょう。足が床から浮いていると、食事の姿勢が崩れやすく、食べられる量も減ってしまいます。

リクライニング車椅子の場合

リクライニング車椅子を使用している人の場合、高齢者の身体の状態や本人の希望に合わせてリクライニングの角度を45~80度くらいに保ちましょう。本人とコミュニケーションをとりながら、無理のかからない角度を見つけてください。ティルト機能がある場合は、ずれ落ちを防ぐために、まずティルトで角度をつけ、その後リクライニングの角度をつけるようにしましょう。

ベッドで食事する場合

食事はできるだけ食堂で行うことが望ましいですが、高齢者の身体状況に合わせてベッドで行うことがあります。リクライニング車椅子の時と同様、高齢者の身体状況や希望に合わせて、リクライニングの角度を45~80度くらいに保ちます。
その際、一旦ベッドをフラットの状態にしてから、背ボトムの接続部分(ベッドのリクライニングの折れ曲がる部分)にお尻の位置が来るようにヘッドボード側に身体を移動させ、ずり落ちないように足側も少し上げてからリクライニングの角度を調整するようにしましょう。膝は軽く曲げられるようにして、その下にクッションなどを挟んであげると姿勢が楽になります。
顎を少し引けるように、首下から後頭部の辺りにクッションや枕を挟んであげることで、誤嚥を防ぐことができます。

食事を始める前にすること

食事は、リラックスしておいしく食べてもらえる状態が理想です。実際にものを食べ始める前にしておきたい準備についてお伝えします。

排泄を済ませる

食事に集中してもらうために何よりも大切なのが、食事前に排泄を済ませてもらうことです。
途中でトイレに行くとなると、一旦食事を中断しなければなりません。また、同室に設置されているポータブルトイレを使用する場合は、部屋の中に排泄物のニオイが残り、それ以上食事が進まなくなる可能性もあります。あらかじめ便意や尿意がないかを必ず確認し、ポータブルトイレに排泄した場合はニオイの対策まで済ませてから、すっきりした状態で気持ち良く食事を始められるようにしましょう。

食事しやすい環境を整える

テレビなどがついていると、ついそちらが気になり、食事に集中できない可能性が高まります。食事を始める前にテレビは消しておきましょう。
あまりにも部屋が静かな状態では、緊張してしまう可能性がありますので、ゆったりとした音楽をかけ、リラックスできる環境をつくるのも効果的です。

口の中を清潔にする

食事の直前に、うがいや歯磨きなどをして口の中を清潔にしておきましょう。
特に嚥下障害のある高齢者の場合、口の中に汚れが残っている状態で誤嚥してしまうと、細菌が気管に入り込み、誤嚥性肺炎を発症するリスクが高まります。
また、食事前に口の中をきれいにし、舌苔なども取り除いておくことで、味を感じやすくなるだけでなく、唾液の分泌が活性化し、食べ物を飲み込みやすくなります。
嚥下障害が顕著な高齢者には、食事前に口腔清掃を行うことが望ましいです。

唾液の分泌を促すトレーニングをする

食べ物をのどに詰まらせたり、むせたりする回数が多くなると、食事に対して苦手意識を持つ可能性があります。ものを食べる前に嚥下体操や口腔体操などを行い、スムーズに食べられるようにしてあげましょう。

手を清潔にする

これは一般の人の食事でも当てはまることですが、風邪を予防するためにも食事前には手を洗いましょう。認知症がある人などは、手で食べ物をつかんでしまうこともあります。
そのときの身体状況によっては、濡れタオルやウェットティッシュなどで手を拭いてあげましょう。

安全な姿勢を確保する

肺炎の要因となる誤嚥を避けるためには、飲み込んだ食べ物が気管に入らないように注意する必要があります。高齢者の状態に応じて、お腹や腰に力の入りやすい姿勢に直してあげましょう。

献立を説明する

「おいしいですね!」「これは○○のような味です」などの言葉と一緒に献立を説明し、食欲を刺激しましょう。自発的に「食べたい」と思ってもらうためです。
あらかじめ食べ物の好き嫌いを把握しておけば、苦手なものが入っていてもおいしく食べてもらえるように工夫したり、食べてもらう順番やタイミングを考えたりできます。

食事介助イメージ2

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食事介助の方法

食事の準備が整ったら、実際に食事を始めます。高齢者の身体状況や性格などによって異なる部分もありますが、基本的な手順を覚えておけば、後はそのときどきで応用をするだけです。食事介助の基本的な方法をご紹介します。

1.安全な体勢を確保し、エプロンをかける
食べこぼしで衣服を汚したりしないよう、介護用エプロンなどを広げてかけてあげる。

2.介護者が隣に座る
介護者は必ず患者さんの横に座り、同じ目線で介助を行えるようにする。忙しいからといって立ったまま介助を行うと、患者さんの顎が上がりやすくなり、誤嚥を誘導する原因になる。

3.食事の前に水分補給をする
食事を開始する前に、お茶や水などで水分補給をしてもらう。口の中が潤っていると、嚥下がスムーズになる。

4.水分の多いものから介助する
食事を開始する際は、まずは汁物など水分の多いものから食べてもらうことがポイント。
水分の多い食べ物は、胃散の分泌を活性化させるだけでなく、高齢者にとって乾燥した食材よりも食べやすいため、ウォーミングアップ的な役割を担う。

5.主食・副食・水分を交互に介助する
料理の温度に注意しながら、主食・副食・水分を交互にバランス良く介助する。
そのとき、一回の大きさや量に注意することが重要。一回の量はティースプーンに軽く一杯分くらいが適切。顎が下がって下向きになると、誤嚥しにくくなるため、スプーンは下から差し出すようにする。また、スプーンを口の奥まで入れないように注意する。

6.食事を急かさない
前に食べていたものをきちんと飲み込んだかどうか確認してから次の食事を運ぶ。焦って食べると、誤嚥やのどの詰まりを引き起こすため、細心の注意が必要。
介護者側ではなく、高齢者のペースに合わせるよう心がける。

7.終了後は摂取量を確認
食事が終わったら、食べた量を確認してから片付ける。
定期的に食事の摂取量を確認することは、高齢者の健康状態を把握する上で重要。

8.口腔ケア~リラックスできる状態へ
食後は、歯磨きをして口の中を清潔にし、すっきりした状態で休めるようにする。ただし、食べたものの逆流を防ぐため、食後すぐに横になってもらうのは避ける。

食事介助イメージ3

正しく介助して、食事を楽しい時間に

食事の時間は、介助のやり方一つで、高齢者にとって「楽しみな時間」にもなれば「苦痛な時間」にもなり得ます。
特に、自由に出歩いたり好きな趣味に没頭したりすることが難しい高齢者にとって、食事が楽しいかどうかは、生活の質を左右する大きなポイントとなるでしょう。おいしいものを食べ、毎回の食事を心待ちにすることで、生きる活力が湧き、自立心や前向きな気持ちにつなげられます。
高齢者の気持ちに共感し、「どうすればおいしく食べてもらえるか」を考えながら、適切な介助を行うことが重要です。

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この記事の監修者

食事介助イメージ4

医療法人社団高輪会 人事部教育研修課
歯科医師 成平恭一 歯科衛生士 渡辺昭子 言語聴覚士 岡島雅美
公式HP:https://www.takanawakai.or.jp/

医療法人社団高輪会、昭和54年設立。
訪問歯科を中心とした医療法人で、全国の歯科医院に先駆けて専用の訪問診療車を導入するなど訪問歯科を積極的に運営。訪問歯科のほか学術研究に裏打ちされたノウハウと技術で、外来診療や審美歯科など幅広い歯科サービスを提供。人事部教育研修課はグループ従業員数歯科医師、歯科衛生士含め約650人の研修を取りまとめる。

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